| ◇講習費用返還契約
ある会社の事例です。
この会社は教育熱心な会社で、以前から「業務に必要な技能試験、免許、資格等」を会社の全額負担で各従業員に受けさせ、技能の修得・向上を図っていました。しかしながら経営者は「制度そのものは問題ないのだが、ときどき、会社の費用で資格等を取らせてもらいながら、取るとすぐに辞める者がいる」との悩みを持っていたのです。
そこで3年前に、「会社が負担した資格等取得のための講習費用等を使用した従業員が、資格等取得後5年以内に自己都合退職するときは、その講習費用等を退職時に会社へ返還すること」という内容の通知を従業員に対して行ったのです。
その後、この規定に反した退職者(1人)からは、規定通り返還してもらったのですが、最近になって、この企業がISOの認証取得をするに当たり、その内部監査員および審査員の講習を会社負担(総額約40万円)で受講した従業員が、自己都合退職したいと申し出てきたので、「規定により約40万円を返還してください」と通知したところ、「そのような規定は知らないから返還しない」と異議を申し出てきました。そこで会社としては「給与と相殺する」旨を通知したところ、「そのような行為をすれば監督署に訴える」旨返答があったとの事でした。
さて、このような場合、会社は返済を受けることができるのでしょうか。
この例の場合、訴訟となれば会社は「敗訴する」と考えられます。なぜなら、このような契約は労基法第16条(賠償予定の禁止)に抵触する可能性があるからです。すなわち、会社の費用で講習を受講した従業員には一定期間会社で就業することを義務づけ、違反者からは講習代を返還させるという規定は「労働契約の不履行について違約金を定め又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」に反すると考えられるからです(判例)。
したがって、このような場合「資格取得等の費用は会社が立替払いをし、従業員から返還させる。但し、その後○年間勤務した者についてはこの返還義務を免除する。」とすれば労基法16条には反しないと考えられます。また、その返済金額もあまり多額であっては認められないこともあります(判例)。ただ、具体的に「何年間まで、額いくらまで」といったものはありませんので個別に判断することとなります。また、「原則従業員から返還させる。ただし、一定の者には返還義務を免除する。」旨の念書を従業員から取っておき、さらにその内容について各従業員に十分説明し、理解を得ておく、といったことが必要であったと考えられます。こうすることにより経営者の意に反した支払いはなくすことができると考えられます。
|